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江戸時代からの仲違いを乗り越えて! 2軒の酒蔵が、古酒ブレンドで力を合わせる
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- はじめまして。富山県で酒卸に携わる北陸酒販の原誠です。「おわら風の盆」で知られる八尾の町で何が起きていたか、という話からご説明させてください。今回、みなさんにぜひ手にとっていただきたい「八尾ブレンド」については、すみません、そのあとで…。
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- ここ八尾の初秋を彩る「おわら風の盆」、その起源は江戸時代です。踊り手が風情ある古い町並みを練り歩く姿に、多くの人が魅せられています。例年なら8月下旬が前夜祭で、9月1日から本祭となるはずなのですが…コロナ禍のために2020年、2021年と連続して中止となりました。
- 八尾に暮らす人にとって「おわら風の盆」は初秋のものだけではありません。ものごころがついたころに始まり、大人になっても、公民館などに集まり、1年通して、毎週のように踊りや稽古の稽古に励みます。つまり、八尾の町で生活しているすべての人にとって、「おわら風の盆」は、幼い時分から身体にしみ込んでいる存在です。
- それが2年連続の中止。「このままでは、八尾が八尾でなくなる…」。地元の人たちの思いは、それほどまでに深刻でした。
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- ここからが本題です。八尾の人が「『おわら』を中止するというのは、お手洗いに行くのを我慢しろというのと同じだ」と深刻な表情を浮かべるなか、2つの酒蔵が昨年(2021年)に力を合わせます。お互いの日本酒を交換して「八尾ブレンド」の第一号を、「おわら風の盆」が催されるはずだった初秋に、富山県内の限定、数量限定で発売しました。この「八尾ブレンド」第一号の販売、私たち北陸酒販がお手伝いしましたが、見事に完売となりました。
- 昨年のこの第一号は「純米酒」と「本醸造原酒」の2種類の限定販売でした。今回のクラウドファンディングは、その「八尾ブレンド」第二号の製作についてのお願いなのですが、重ねてすみません、第一号が生まれた経緯をもう少しだけ、先にお話しさせてください。
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製作者の想い
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戦うべきは、相手の蔵ではない
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- 伝統ある町に必ずと言っていいほど存在するものが2つあります。まず、祭りでしょう。そして、日本酒の蔵ですね。八尾の町はさほど大きくはありませんが、1808年創業の玉旭酒造、1848年創業の福鶴酒造が、現在も事業を続けています。
- ちいさな町のなかに2つの日本酒蔵がちゃんと生きながらえているという事実が、八尾の町の成熟した文化を物語っていると表現してもいいかもしれません。
- でも、古い町で酒蔵が並び立っているということは…。この2つの蔵の仲は最悪だったんです。玉旭の蔵元がこんな話をしてくれました。「春の祭りなどで、八尾の家々が御花を打ちます(日本酒などを奉納する)が、『ああ、福鶴さんの酒のほうが多いなあ』というふうに、私自身とても気になっていました」
- 1800年代から、ちいさな町でずっと睨み合ってきた2つの酒蔵が、どうして急に握手を交わしたのか。福鶴の蔵元はいいます。「いまの敵は相手の蔵ではない。コロナ禍こそが敵です」。
- 八尾が八尾でなくなるかもしれない、という危機に直面して、積年の敵対関係であった酒蔵が手を携えたことで、地元の人はまさに拍手喝采でした。「おわら風の盆」が続けて中止となるなかで、八尾に新しい風を吹かせたわけですから。
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「コロナ禍以前」の酒をブレンド
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- さあ、ここからが今回、みなさんに飲んでいただきたい「八尾ブレンド」第二号の話です。2つの蔵元と、販売を担う私で集まり、今年の方針を決めました。
- 1. 昨年は富山県内限定でしたが、今年は全国のみなさんになんとかお届けしたい。
なぜなら、今年は「おわら風の盆」が開催される可能性もあるからです。クラウドファンディングを公開するのは、その思いがあっての話です。 - 2. 「八尾ブレンド」をさらに進化・深化させたい。
全国にお届けするうえで、昨年と同じなだけでは、みなさんに振り向いてはいただけないかもしれません。 -
- では、どうするか。私たちは考えたすえ、こう決断しました。今回は2本のセットでいこう、と…。まず1本は、今年2022年のお互いの酒をブレンドしたもの。そしてもう1本は、2019年物の古酒をブレンドして完成させたものにします。
- つまり、「コロナ禍の直前」に醸した古酒のブレンドと、「コロナ禍の後」を見据えて醸した酒のブレンド。この2本セットということです。
- こうした2本を飲み比べていただくことで、苦しい時間を経てビヨンドコロナに向けて力を合わせていこう、という気持ちを、ぜひみなさんと共有したいという思いがありました。
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3年古酒のブレンドはごく希少
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- 最近では、日本酒の酒蔵が古酒の販売に取り組むケースが多く見られますけれど、別の蔵同士の古酒をブレンドする、という事例はまず聞いたことがありません。これが実現しようというのが、今回の「八尾ブレンド」です。
- 幸いなことに、玉旭にも福鶴にも、ブレンドできるだけの2019年物の古酒がそれぞれの蔵に残っていました。
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- 玉旭と福鶴、2つの酒のブレンド比率は1:1と決めました。それぞれの酒がお互いを五分五分で引き立てるようにしたかったので。
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- さあ、それぞれの蔵に残るどの酒をブレンドするか。私たちはブレンド試作に臨みました。2019年物のほうも、2022年物のほうも、狙うテーマはただひとつでした。それは先にも触れたとおり…。
- 「コロナ直前からいまに至る時間を実感できる2本にしたい。時間が培った味と香りをしっかりとお伝えしたい」
- 3年という時間を感じていただくために、今回の2本を製作するのですから、ここは外せないところです。その結果…。それぞれの個性が際立つ仕上がりにできたと感じています。
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- 玉旭の蔵元はいいます。「2019年物は、(コロナ禍での日本酒市場の落ち込みで)世に出したくても出せずに残っていた酒です。でも、『温存』という言葉もあるじゃないですか。2つの蔵が大事に残してきた古酒が、こうして一緒になったわけです」
- 福鶴の蔵元は…。「コロナ禍の苦しい時期を、私は『熟成の時間を与えてくれた』と捉えています。これもまた勉強です。そして2つの蔵の古酒をブレンドしたら、一方の酒だけでは決して得られない、これまでにない丸みが味わいに現れました」
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- 今回の「八尾ブレンド」第二号のセットは、八尾の町で「おわら風の盆」の前夜祭が催されるであろう8月下旬に、みなさんのお手元にお届けする予定です。まずは「2022年物」を冷やして楽しんでいただき、さらに「2019年物」をゆっくり、ちびりちびりと味わう…。そんな時間をお過ごしくださればと思います。
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地域おこしに必要な姿勢を学んだ
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- 私・北村は、昨年(2021年)の「八尾ブレンド」第一号を、富山への出張時にこの目で見て、ひとりの客としてすぐさま購入しました。
- 敵対関係にあった2つの蔵が、「いまはそんなことを言っている場面ではない」と決断して、1800年代以来の睨み合い(ちいさな町で100メートルも離れていない位置関係なので、まさに睨み合い)を超えて、握手したんです。こうした経緯を聞くだけでもう、酒の味わいに深みを覚えました。ああ、地域おこしって、こういう決断と行動のもとでこそ成功するんだな、という感慨すらありましたね。八尾に暮らす人たちに、どれほどの喜びをもたらしたか…。
- で、思ったわけです。「地域おこしに必要なのは『2度目があること』」。これは私が常々確信していることです。だったら、3年ぶりに「おわら風の盆」が催されるかもしれない今年、「八尾ブレンド」の「2度目」があるのは極めて大事な話ではないかと考え、再び富山に飛んで、2人の蔵元、そして2人の仲を取り持った北陸酒販の原さんに声をかけました。
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全国のみなさんにお届けする意味
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- この春から初夏にかけて、全国各地で3年ぶりにさまざまな祭りが復活開催となりましたね。大型連休の時期、私は別案件の仕事で、そうした祭りを取材し続けていたのですが、それを通して実感したのは、「祭りは人だ」という話でした。
- 伝統を守る人、未来へつなぐ人、そして訪れる人をもてなす人…。今回の「八尾ブレンド」第二号に臨む2人の蔵元もまた、「おわら風の盆」が根づくこの町の息遣いを大切に考えたからこそ、こうして再び手を取り合ったのですね。
- ビヨンドコロナに向けて、移動の制約が少しずつ解かれているいま、地方には新たな危機が生まれつつあるとも思っています。各地にあるちいさな町のことを忘れられてしまうのではないか…。その意味でも、今回、全国のみなさんに向けて「八尾の町は、ここにあります」と旗を振ろうとする蔵元たちの姿勢には、ただただ共感するばかりです。
- 最後に…。2019年物と2022年物、2つの蔵のそれぞれどんな酒をブレンドしたのか。純米? 吟醸? 山廃? すみません、そこは秘密とさせてください。種明かしするのも無粋だろうというのが、2人の蔵元の言葉でした。
- ブレンド試作の場面、私も立ち会いましたが、「ああ、こうくるのか」という相当に立派な酒を合わせていたことだけは、お伝えしておきます。
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- 2人の蔵元が握手した、ということを、みなさんにより感じていただくため、包み紙にはそれぞれの蔵元の手形をかたどります。2人とも真剣に手形を押していました。その表情からも「八尾ブレンド」第二号に臨む蔵元たちの意義込みを読み取れましたね。
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飲酒は20歳になってから。飲酒運転は法律で禁じられています。
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妊娠中や授乳期の飲酒は、胎児・乳児の発育に悪影響を与えるおそれがあります。お酒は適量を。
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